まっくらやみのコーヒーカップ


白、黒、赤、ときどき黄色、黄緑

あなたの部屋

わたしの趣味じゃないから
あんまり好きじゃないけど
いい匂いがするから居心地いいの


あなたが淹れてくれるコーヒー
砂糖と牛乳を入れると
あなたはすこし顔をしかめる

「だって苦いんだもん」

「子供だなー」

言い訳するとあきれて笑う
聞き飽きた言葉が返ってくる


あなたは黒いままのコーヒーを
ゆっくり、大事そうに飲む

わたしも一口飲んで
でもまだ苦いからテーブルに置いた

手を伸ばして
あなたのコーヒーを奪って
テーブルに置く

隣に座ってもたれかかる
空いた手を握る


近づくのなんて簡単だよ
こんなふうに手を握って隣に座って
抱きついてキスしてしまえば
隙間なんて無くなるもの


でも、どれだけ近づいても
どれだけ見つめていても
あなたに見つめられても
あなたの想いはこっちを向いてくれない


ほんとうに好きになったのってはじめてだった

こんなこと声に出したら
嘘だって言って
あなたは笑うかもしれないけど

そんなふうに言われたら
わたしだって
嘘だよって言って
笑っちゃうかもしれないけど


でもほんとうだった

だからくるしいの


わかってたけどやっぱりつらい

わかってるからなおさらつらいよ


くるしい痛い痛い

なくなっちゃえばいいのに
わたしを悲しませるものなんて
こんな想いなんて


あなたのことなんて
どうでもいいって思えたら

わたしを大切に想ってくれる人を
同じように想えたら


耳元で聞こえるあなたの声が
そんな思いをすべて消してしまうの


いつかくる未来は
まだぼんやりとしか見えてない
そのとき感じる気持ちを
わたしはまだ何も知らない


さらさらして気持ちいい
いい匂いがする

そんなこと言うあなたの声と
髪をなでる大きな手

その心地よさと痛みの中で
わたしはただ目をつむって
いつかくる未来を
待つことしかできずにいるの